楽曲解説と詩のすべて

  • 2018.04.13 Friday
  • 00:38

公演まで残すところあと2日となりました。

私がこのブログで繰り返し八木重吉についてのことを書いているのは、今、この八木重吉の詩を切迫して必要としている人がどこかにいるのではないかという焦燥感からでした。八木重吉は生前、自分の信仰を人のために役立てたいと思いながら病気のためにそれが叶わず、この詩を書きました。重吉さんに代わり、どうかこの詩がいま必要としている人に届きますようにと強く願いながら、この「私が、もういちど、生まれ変わる日。」のすべての詩と、楽曲解説を書かせていただきます。

そして、120名に及ぶ合唱団員のお一人お一人に、この詩が生まれた背景が伝わりますように。

 

では、まず全曲の詩からいってみよう!

 

 

 

−序−
私は、友が無くては、耐えられぬのです。
しかし、私にはありません。
この貧しい詩を、
これを読んで下さる方の胸へ捧げます。
そして、私を、あなたの友にして下さい。

 

 

 

1. いつの日に

 

いつの日に

にんげんは天の使のようになるのか

いったい その日があるのか

 

ひとをいかり

みづからをいかる

くるしい日がまたやってきた

 

のろふはやすい

まだのろわずにおけ

いつだっていい、

まだ だまってゆけ

 

くるしくなって

つっぷせば

消えていく

 

死ぬこともできない

すてることもできない

くひしばって生きてゆく

 

忍びてゆけ

突破しながらゆけ

頭をひくくたれひくくたれ

死ぬことができぬほどしつこくゆけ

 

 

2. あをい 水のかげ

 

たかい丘にのぼれば

内海の水のかげが あをい

わたしのこころは はてしなく くづおれ

かなしくて かなしくて たえられない

 

あるときは

神はやさしいまなざしにみえて

わたしを わたしのわがままのまんま

だきかかへてくれそうにかんぜらるるけれど

またときとしては

もっともっときびしい方のようにも おもわれてくる

どうしても わたしをころそうとなさるようにおもへて

かなしくてかなしくて たえられなくなる

 

Deus, quis similis erit tibi?

ne taceas, neque compescaris, Deus :

(神よ、黙っていないでください

神よ、黙ったままでいないでください 詩編83:2)

 

たかい丘にのぼれば

内海の水のかげが あをい

わたしのこころは はてしなく くづおれ

かなしくて かなしくて たえられない

 

 

3. 人を殺さば

 

ぐさり! と

やって みたし

 

人を ころさば

こころよからん

 

Quia inflammatum est cor meum, 

et renes mei commutati sunt ;

et ego ad nihilum redactus sum, et nescivi :

ut jumentum factus sum apud te,

et ego semper tecum.

(わたしの魂が痛み

心がみじめになったとき

私は愚かで悟らず

み前で荒々しい獣のようになった 詩編73:21-22)

 

 

4. あかんぼもよびな

 

さて

あかんぼは

なぜに あん あん あん あん なくんだらうか

 

ほんとに

うるせいよ

あん あん あん あん

あん あん あん あん

 

うるさか ないよ

うるさか ないよ

よんでるんだよ

かみさまをよんでるんだよ

みんなもよびな

あんなに しつっこくよびな

 

Exaudi, Domine, vocem meam, qua clamavi ad te ;

miserere mei, et exaudi me.

(主よ、わたしが呼ぶとき、わたしの声に聞き

わたしを憐れみ、こたえてください 詩編27:10)

 

 

5. 草に すわる

 

Prope est Dominus omnibus invocantibus eum,

omnibus invocantibus eum in veritate.

(主はおられる、助けを求める人の近くに

心から祈る人の傍らに 詩編145:18)

 

わたしの まちがいだった

わたしのまちがいだった

こうして 草にすわれば それがわかる

 

 

6. ふるさとの 山

 

ふるさとの山のなかに うづくまったとき

さやかにも 私の悔いは もえました

あまりにもうつくしい それの ほのほに

しばし わたしは

こしかたの あやまちを 讃むるようなきもちになった

 

Levavi oculoa meos in montes,

unde veniet auxilium mihi.

Auxilium meum a Domino,

qui fecit caelum et terram.

(目を上げて、わたしは山々を仰ぐ

わたしの助けはどこから来るのか

わたしの助けは主から

天地を造られた主から来る 詩編121:1-2)

 

あかるい日

山をみていると

こころが、かがやいてきて

なにかものをもって

じっと立っていたいやうな氣がしてくる

 

 

7. うつくしき わたし

 

Paratum cor meum, Deus, paratum cor meum ;

cantabo, et psalmum dicam.

(神よ、わたしの心はひるむことなく

あなたをたたえて歌う 詩篇57:8)

 

いきどほりながらも

美しいわたしであらうよ

哭きながら

哭きながら

うつくしいわたしであらうよ

 

Exsurge, gloria mea ; 

exsurge, psalterium et cithara : 

exsurgam diluculo

(わたしの魂よ、目覚めよ。琴よ、竪琴よ、目を覚ませ

琴を奏でてあけぼのを呼び覚まそう 詩編57:9)

 

うつくしくなると

いったん人はとほのいてみえる

もっとうつくしくなると

かがやいてちかづいてくる

 

哭きながら

哭きながら

うつくしいわたしであらうよ

 

 

8. ゆるし

 

神のごとくゆるしたい

ひとが投ぐるにくしみをむねにあたため

花のようになったらば神のまへにささげたい

 

Qui seminant in lacrimis,

in exsultatione metant.

(涙のうちに種まく人は

喜びのうちに刈り取る 詩編126:5)

 

 

9. 心よ

 

こころよ

では いっておいで

 

しかし

また もどっておいでね

 

やっぱり

ここが いいのだに

 

こころよ

では 行っておいで

 

 

10. 雨

 

雨のおとがきこえる

雨がふっていたのだ

 

あのおとのようにそっと世のためにはたらいていよう

雨があがるようにしづかに死んでゆこう

 

Quoniam apud te est fons vitae

et in lumine tuo videbimus lumen.

(命の泉はあなたのもとにあり

あなたの光のうちにわたしたちは光を見る 詩編36:10)

 

神さま あなたに会ひたくなった

 

 

 

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つづいて、楽曲解説です

 

委嘱のお話をいただいた時、ホール改修後初となる設置記念30周年のこのコンサートが春のイースター(復活祭)とも重なることから、私は「生まれ変わる」ことを主題とした作品にしたいと強く願い、詩を探し始めました。しかし長い間心を動かされる詩に巡り会うことができないでいました。そんなある時、たまたま聴いた八木重吉の「あかんぼもよびな」という詩に衝撃を受けました。「赤ん坊が泣き止まない!うるさい!今、自分が生きるだけで精一杯だというのに、本当にうるさんだよッ!」苛立ちが暴発しようとする寸前に「うるさかないよ…うるさかないよ…」と、かすかな声が響きます。この声は彼自身だったのか、彼が生涯追い求めた「かみさま」の声だったのか…?この時、赤ん坊が泣き止まないという事態は依然として変わらないのに、この「気づき」がそれまでのやさぐれた心をみるみると再生させていきます。心が生まれ変わる瞬間をみごとにキャッチしたこの詩に大きく心が揺さぶられた私は、死んでしまった心が再生するまでの物語を八木重吉の詩で構成したらどうなるかと、全集を貪り読みました。その間中、すぐ隣で重吉さんが「これはどう?こっちはどう?」と次々提案してくれているかのようでした。さらに「かみさま」までもが呼応するかのように旧約聖書の詩編も次々に目の前に顕れてくるではありませんか。この体験は「目に見えない大きな存在がいつも並走してくれている」という実感そのものでありました。29歳で生涯を閉じるその瞬間まで、慟哭しながらただひたすらに「かみさま!」と叫び続けた詩人、八木重吉。彼の渾身のことばを、僭越ながら私の手で構成して「私が、もういちど、生まれ変わる日。」と名付けさせていただきました。全てを書き終えふりかえりますと、この作品の中で描く心の再生とは、自分の死期を知った人間が、孤立、怒り、抑うつなどを経て受容していくキューブラー・ロスの「死の受容」のプロセスと非常に似ていると感じます。ということは、やはり死とは受容にほかならず、生まれ変わりへの厳しくも輝かしいステップであると感じるのです。

 

【八木重吉がよくわかるおもしろい書籍】

「重吉と旅する」

https://www.amazon.co.jp/重吉と旅する%E3%80%82-29歳で夭逝した魂の詩人-いのちのことば社-Forest・Books-フォレストブックス/dp/4264036941

 

【松本市音楽文化ホールオルガン設置30周年記念コンサート】

”私が、もういちど、生まれ変わる日。”

2018年4月15日

松本市音楽文化ホール

15:00開演

https://www.harmonyhall.jp/organ30/